妊娠中はたばこやアルコールだけでなく、食べ物にも気をつける必要があることは聞いたことがあると思います。
生ハム、生肉、生魚、魚卵、ナチュラルチーズなどは避けるべき食材としてよく知られていますよね。
食品を介して感染した細菌やウィルスが、胎児にも感染してしまう「母子感染」を予防するためです。
ただ、食品そのものだけでなく、子どもの食べ残しなどにも感染リスクがあるということをご存じでしょうか。
妊娠中で、上の子の育児をしていたり、保育園や幼稚園・小児科勤務などで子どもと関わる仕事をしている方は、感染予防のために注意が必要です。
この記事では、
- 妊娠中に子どもの食べ残しを食べてはいけない理由
- サイトメガロウィルスについて
- 妊娠中に子どもとの関わりで気をつけるべきこと
についてお話していきます。
子どもの食べ残しを食べてはいけない理由
母子感染で赤ちゃんに重篤な症状を引き起こすものの中に、サイトメガロウィルス感染があります。
大人や子どもがサイトメガロウィルスに感染した場合、無症状か風邪のような症状が出て、サイトメガロウィルス感染に気づくことはありません。
サイトメガロウィルスに感染している人の食事の食べ残しには、サイトメガロウィルスが潜んでいます。
子どもが感染していると気づかずに食べ残しを妊婦さんが摂取すると、妊婦さんにほとんど症状がなくても、お腹の中の赤ちゃんに感染してしまうことがあります。
TORCH(トーチ)症候群
TORCH(トーチ)症候群は、母子感染の中でも、赤ちゃんに重篤な症状を引き起こす感染症の総称です。
- T:Toxoplasmosis=トキソプラズマ
- O:others=その他の感染症(梅毒、B型肝炎、リンゴ病、水痘など)
- R:Rubella virus=風疹
- C:Cytomegalovirus=サイトメガロウィルス
- H:Herpes simplex virus=単純ヘルペス
この中でもサイトメガロウィルス感染は最も報告件数が多いとされています。
サイトメガロウィルス感染
サイトメガロウィルスは幼少期に感染を経験することが多く、健康な大人や子どもが感染しても特に問題はありません。
国立感染症研究所によると、妊娠可能年齢にある女性のサイトメガロウィルス抗体保有率は90%台から70%台に減少しています。
これまで、先天性サイトメガロ感染児は、妊娠中に初めて感染した妊婦さんから多く出生すると言われていました。
ですが、最近では初感染ではない妊婦さんから出生した割合の方が多いとも言われています。
そもそもですが、自分がサイトメガロウィルスに感染したことがあるかどうか知っている人は普通いないですよね。
妊婦健診ではサイトメガロウィルスの抗体検査はしていない病院がほとんどです。
里帰り出産や転居などで全国各地の病院からの紹介状に目を通す機会がありますが、妊娠初期にサイトメガロウィルス抗体の検査をしていることは本当にまれです。
すべての妊婦さんに感染対策が必要ということですね
赤ちゃんへの影響
妊娠中には流産・死産、発育遅延となることがあります。
感染した赤ちゃんの20〜30%が出生時に症状があり、70〜80%が無症状です。
症状がみられた赤ちゃんのうち、約90%が発達遅滞、運動障害、難聴などの後遺症が残り、症状がみられなかった赤ちゃんでも約10%に難聴などの後遺症が残ることが分かります。
生まれた後に赤ちゃんが元気であっても、妊娠の週数に比べて赤ちゃんの体重が小さかったり、入院中の聴覚検査の結果から、尿検査でサイトメガロウィルスの感染を調べることがあります。
この検査は生まれてから3週間以内の赤ちゃんが対象となります。
生後3週間を超えると、生まれる前の感染なのか、生まれた後の感染なのか判別できなくなってしまいます。
新生児聴覚検査は任意検査ですが受けることをおすすめします
公費補助の出る市区町村も増えてますよ
感染予防
妊娠中のサイトメガロウィルス感染の多くは小さな子どもからです。
サイトメガロウィルスのワクチンはありません。
特に子どもの唾液や尿が感染源となるので、小さな子どもと接する機会のある方は感染対策が必要です。
- 子どもの食べ残しを食べない
- 子どもと食べ物、飲み物、食器を共有しない
- 子どもの口や頬にキスをしない(唾液の接触を避ける)
- よだれがついた子どもの手やおもちゃを口に入れない
- 下記の後には石鹸と水道水で15~20秒手洗いをする
- 子どものよだれや鼻水を拭く
- オムツ交換
- 子どもの使った食器を触る
- 子どものおもちゃを触る
- 子どもと関わる仕事の場合は、職場でも①~⑤を実施する
唾液や尿が付いている可能性の高いものに触れた後は、手洗いをしないまま目・口・鼻などの粘膜や傷を触らないことが大切です。
サイトメガロウィルスは、石鹸、アルコール、漂白剤、乾燥に弱いと言われています。
布団など洗えないものは天日干しでよく乾燥させるのが有効です。
心配な時には早めに病院に相談しましょう
おわりに
私は有床クリニックで助産師をしています。
今回の記事は、患者さんや近隣の小児科医との関わりから、妊婦さんや妊娠を希望する方にサイトメガロウィルスの母子感染について、ぜひ知っていて欲しいという思いから書きました。
「知らなかった」ことでつらい思いをする方が少しでも減ることを願っています。